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5話 両親

Penulis: ニゲル
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-22 06:00:00

「こらこら波風ちゃんも居るんだしお行儀良くね」

「ふ、ふぁい。ほへんはふぁい」

 トーストを飲み込むように喉奥に押し込みつつ牛乳で流し込む。

「ご飯ありがとねお義父さん!」

「どういたしまして。今日は研究で帰るの遅くなりそうだからまたその……ごめんね」

「ううん気にしないで。研究頑張ってね」

 お義父さんは研究で大忙しであり特に最近は家族の時間がかなり減っている。だが仕事だから仕方ない。私はそう言い聞かせて甘えたい気持ちをグッと抑える。

 残りのベーコンと目玉焼きを食べ洗面所に向かう。

「高嶺……また胸大きくなった?」

 着替えていると波風ちゃんがひょこりと顔を出し、私が着替える様子を不審者のおっさんのように覗く。発言もセクハラめいていて一気に年老いたようだ。

「もう。気にしてるんだからあんまりそういうこと言わないでよ」

「気にしてる? 育ってるんなら良いじゃない。成長しないより……」

 波風ちゃんは恨めしい視線をこちらに送ってくる。鋭いそれは私の胸に突き刺さり貫通する。

「でも大きくなると動きにくいんだよね。体育の時も邪魔だし、ブラのサイズを変えるのも面倒だし」

「……それ嫌味?」

 波風ちゃんから放たれる視線が更に強く厳しいものになる。睨まれたまま着替えを進め準備もやがて終わる。

「じゃあお義父さん行ってきまーす!」

「失礼しましたおじさん」

 私達は玄関に行き靴を履く。

「うん行ってらっしゃい。波風ちゃんもまたいつでも来ていいからね」

「はい! ありがとうございます」

 波風ちゃんが外に出て私もその後に続こうとする。だがその前に置いてある一つの写真に向き直る。

「行ってきます…….お父さん。お母さん」

 私はもういない両親にもしっかり挨拶し波風ちゃんを追いかける。

「そういえば……震災からもうちょうど十年なんだね」

 大学行きのバスが出ている駅に向かう途中。波風ちゃんが重そうにしながらも口を開く。

「うん……そうだね。お父さんとお母さんがいなくなってから……もう十年かぁ」

「結局まだ見つかってないの……?」

「波に攫われてそのまま見つかってない。多分もう……」

 十年前に起きた大震災。それにより私と波風ちゃんが当時住んでいた地域は未曾有の大被害に遭った。今では復興も進んでいるが亡くなった人達が帰ってくるわけではない。

「高嶺……忘れろなんて言わないわ。アタシはアンタの笑ってる顔が一番好き。だから……」

「言わなくても分かってるって。それに誰かを笑顔にしたいならまず自分自身が笑顔でいないとね」

 辛くないと言われたら嘘になる。だがしかしそれでも気丈に振る舞わなくてはいけない。みんなの希望でいるためには。

「あ、バス来たわね」

 駅で待つこと数分。大学行きのバスがやって来る。私はグレープとオレンジとソーダ味のグミを頬張りながらバスに乗り座席に座る。

「ふぁぁ……お日様が当たって寝ちゃいそう」

「アンタはもう十分寝たでしょうが」

 波風ちゃんの指が私のお腹に突き刺さる。しかし柔らかい座席にバスの揺れ、それにこの温かい日光は眠気を誘ってくる。

「ほら肩貸してあげるから。ただ着いたらすぐ起きなさいよ」

「はぁい。ありがとう波風ちゃん」

 私は優しい幼馴染の肩に頭を乗せてうとうととまた意識を微睡ませる。

 窓からは街の景色が見えており、建て直りつつもまだ戻っていない現状が目に入る。

 私はその現状から逃げるように目を瞑り眠りへとつくのだった。

 数分後。扉の開閉音に鼓膜が揺らされて私は意識を覚醒させる。

「あら、起こす必要はなかったわね」

「うんそうみたい。ふぁぁ……」

 体を伸ばし大きな欠伸をかく。もう大学には着いたらしく、私は波風ちゃんに手を引っ張られながらバスを降りる。

「わぁ……ひっろい……ねぇねぇこれ全部学校なの!?」

 中学とは違いこの大学は果てしなく広く、敷地の隅がここから見えずバス停が学内にありその上ここから一番近い校舎でさえ立ち入るのにそこそこ歩く必要がある。

「らしいわね。国立の理系大学だと敷地が必要らしいからね。その分田舎に追いやられてるらしいけど」

 波風ちゃんの言った通りここは市の隅っこであり、バスでも駅からそこそこかかっている。

「確かたけ兄はA棟で待ってるってメール来てたから……あっ、ここから一番近いわね」

 波風ちゃんがあらかじめスマホにダウンロードしておいたマップを拡大して現在地と待ち合わせ場所を特定する。

「えっ……本当に広くない? 棟一個で私達の学校より広いのにそれが十何個も……しかも頭が痛くなるような、難しそうな名前の施設もあるし……」

 マップから推定すると敷地面積は地方のテーマパークレベルであり、しかも棟は場所によっては六階もあり高さもある。

「まぁ少なくとも今日はほとんどの場所に行かないでしょうね。とにかく場所は分かったしこれ以上待たせても悪いし早く行くわよ」

 ちょくちょくマップを見ながら迷わないようにA棟まで歩く。道中で海外の人もちらほら見え、まるで外国か観光地にでも来たかのような気分だ。

 一、二分ほど歩いてやっとA棟に着き複数ある入り口の内の一つから建物内に入る。床は赤レンガが張ったようなものになっていて天井は三階まで吹き抜けており廊下を歩いている人がちらほら見える。

「確か広めの講義部屋……あっ、ここか」

 入り口近くの部屋が待ち合わせの場所だったらしく、波風ちゃんは灰色の扉を開けレッドカーペットのようなものが一面に広げられた部屋に入っていく。

「……何してるのたけ兄?」

 部屋に入るなり波風ちゃんが呆れた声を出す。私も声には出さないが同様の反応をしてしまう。

 彼は誰も居ない部屋のど真ん中の机の上で寝っ転がり、うずらの写真が貼っている毛布を被りハムスターの絵が入っている枕に頭を乗っけていた。

「おや……意外に早かったね波風。おっ、そっちは高嶺じゃないか! 見ない内に大きくなったな!」

 私達の足音に気づきたけ兄こと北入健《きたいりたける》さんが飛び起きる。

「いやそれより何してんの?」

「君達が遅刻するのが決まってからちょっと確かめたいことを実験することにしてね。学内ではどこが一番寝やすいかっていうのをね」

「それでどうだったの? 教室の机の寝心地は?」

「二度とごめんだね」

 相変わらずの変人っぷりだ。これを素でやっているのだから末恐ろしい。

「それで……何だっけ? 飛び級の申請だっけ?」

「違うって……全くたけ兄は相変わらず人の話聞かないんだから。キュアヒーローに調べてる件を高嶺が知りたいって言ってたって伝えたでしょ!」

「あ、あぁ……そうだったね。じゃあ大学案内も兼ねて話してあげるよ」

 多少話が脱線しかけたが、なんとか軌道修正ができ私達は健さんにガイドされながらキュアヒーローの件についての話を聞き始めるのだった。

 

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